サムエル・フェインベルクのバッハ「平均律クラヴィーア曲集」
ロシア(旧ソ連)のピアニストに、サムエル・フェインベルクという人がいました。
残念ながら、西側諸国にはあまり知られることはありませんでした。
しかし、数少ない録音の中にバッハ「平均律クラヴィーア曲集」があり、その異色さで恐らく後世に名を残すであろう、と思っています。
現代ではこういう風にバッハを弾く人はいないと思います。
しかし、なんと魅力的な音楽でしょう。
日記があまりにも素晴らしくて、文学作品として残っている作家がたくさんいます。
同じように、フェインベルクの平均律は1曲ずつが、とても私的な日記のように私には感じられます。
とてもプライベートな空間を感じるのです。
こんなにストレートに自分自身をさらけだして大丈夫なのだろうか、と不安にすらなります。
フェインベルクはただ普通に弾いているだけかもしれませんが。
フェインベルクとの出会いも、好きなピアニストNo.1のフリードマンと同様、編曲作品でした。
チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の第3楽章をピアノ・ソロ用に編曲していて、それがピアノという楽器の魅力を限界まで引き出しているように感じたのです。
フリードマン編曲のマーラー交響曲第3番第2楽章と同様、フェインベルク本人の演奏だったらどんなだろう、と想像がたくましくなります。
ベルマンももちろん、超絶テクニックで聴かせてくれますが。
リヒテルの平均律は、あまりテンポが好みでない、と書きました。
フェインベルクはどうでしょう。
一貫して速いです。信じられないくらい速いです。
好き嫌いを超越して、ただそのテクニックに感嘆するのみです。
いつかはフェインベルク自身の作品や編曲作品を弾いてみたいものです。